◇潮2012年12月号「ずいしつ・波音」から。
作家・深井律夫氏の文章から抜粋いたします。
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「戦争をして中国が勝って、日本が負けたら、紛争はなくなるの?」
「国際社会はどう思う?」
記者会見でこのような発言をしたため、中国のネットで激しい批判を浴びている人がいます。
ノーベル賞を受賞した莫言(ばくげん)さんです。
私はこの原稿を上海で書いていますが、上海の書店で本を整理していた女性店員が、「ノーベル賞は村上春樹が取るべきだった」と言いました。
「なんで?」と聞くと、「莫言の本が最近、飛ぶように売れている。莫言の本を買う人は、彼の作品を一式すべて買っていく。本棚に飾りたいだけ。中国人には、ノーベル賞は早すぎるのです」とため息をつきました。
デモが最も激しかった9月中旬の上海で、私はタクシー運転手に訊かれました。
「お前は、何で、帰国しないの?」
「中国が好きだから」というと、彼は目を丸くして、「お前は、頭がおかしいぞ」と笑われました。
運転手に「あなたは愛国者でしょう?」と聞くと、「どうして?」とのこと。「だって、日本車でなく、ドイツ車に乗っているから」と言うと、運転手の笑みが消えました。
運転手は言いました。
「俺が選んだわけじゃない。上海のお偉方が決めたんだ。日本の車に乗れば売国奴で、欧米や韓国の車に乗れば愛国者なんて、そういう理屈だ。そもそも、俺が国を愛したからといって、国は俺を愛してくれる?」
莫言さんをネットで罵る人、本を一式買っていく人、高級車に中国の国旗を貼って愛国を標示する人‥そんな人たちを見て、ため息をもらす中国人も沢山います。
もし、私が中国人なら、私もきっとため息をつく側の人間でしょう。
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13億の民が一色で語れるはずはありません。悪い中国情報ばかりが目立つ報道に飽きてきたこの頃、このような文章を読むとほっとします。
仲たがいをしたから戦争の準備をする‥そんな単純な考えに共感できません。
その前にやることがあると、私は思います。
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